「今年うちは、何の研修を何回やればいいのか」——運営指導の前になって慌てて数える事業所は少なくありません。
障害福祉サービスの義務研修は、加算のための研修(サビ管研修・ジョブコーチ養成研修など)とは別物です。修了しても報酬は上がりませんが、やらなければ減算や指摘の対象になります。
本記事は指定基準省令(平成18年厚生労働省令第171号)の条文から、義務づけられた研修・訓練を一覧にします。
義務研修・訓練の一覧#
| # | 内容 | 頻度(就労系) | 委員会 | 指針 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 虐待の防止のための研修 | 年1回以上1 | ○ | — | 第40条の22 |
| 2 | 身体拘束等の適正化のための研修 | 年1回以上3 | ○ | ○ | 第35条の24 |
| 3 | 感染症・食中毒の予防及びまん延の防止のための研修 | 年2回以上5 | ○ | ○ | 第90条6 |
| 3' | 同・訓練(シミュレーション) | 年2回以上5 | — | — | 第90条6 |
| 4 | 業務継続計画(BCP)についての研修及び訓練 | 年1回以上7 | — | — | 第33条の28 |
| 5 | 非常災害に備える避難・救出その他必要な訓練 | 定期的に | — | — | 第70条9 |
| 6 | 従業者の資質の向上のための研修の機会確保 | — | — | — | 第68条10 |
3〜5は研修だけでなく訓練も求められる点に注意が必要です。座学のみでは要件を満たしません。
頻度は条文ではなく解釈通知に書かれている#
指定基準省令の条文はいずれも「定期的に」としか書いておらず、回数を明示していません。回数を定めているのは解釈通知(障発第1206001号)です1357。
感染症だけ年2回以上である点が最大の注意点です。解釈通知は生活介護の衛生管理(基準第90条)について「指定療養介護の場合と同趣旨」とし11、療養介護の項で研修・訓練とも「定期的(年2回以上)」と定めています5。就労移行支援・A型・B型・就労選択支援はこの第90条を準用するため、感染症は年2回になります。
新規採用時の実施も求められる#
解釈通知は、いずれの研修についても新規採用時に別途実施することが重要/望ましいとしています135。年1〜2回の定期実施とは別枠です。
あわせて、研修の実施内容を記録することが必要とされています135。
委員会・指針とセットで求められるもの#
研修だけを実施しても要件を満たさないものがあります。
虐待の防止(第40条の2)2
次の3つすべてが必要です。
- 虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、結果を従業者に周知徹底(テレビ電話装置等の活用可)
- 従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施
- 上記を適切に実施するための担当者を置く
担当者の設置が要件に入っている点が見落とされがちです。
身体拘束等の適正化(第35条の2)4
- 適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、結果を周知徹底
- 適正化のための指針を整備
- 従業者に対し、適正化のための研修を定期的に実施
あわせて、やむを得ず身体拘束等を行う場合は態様・時間・利用者の心身の状況・緊急やむを得ない理由その他必要な事項の記録が必要です。
感染症・食中毒(第90条)6
- 予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、結果を周知徹底
- 予防及びまん延の防止のための指針を整備
- 従業者に対する研修及び訓練を定期的に実施
業務継続計画(第33条の2)8
委員会・指針の定めはありませんが、次が求められます。
- 感染症や非常災害の発生時にサービス提供を継続的に実施し、早期の業務再開を図るための計画を策定し、計画に従い必要な措置を講じる
- 従業者に対し、計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施
- 定期的に計画の見直しを行い、必要に応じて変更
サービスによって違うのは2点だけ#
「サービスごとに研修義務が違うのでは」と心配されることがありますが、就労移行支援・就労継続支援A型・就労継続支援B型・就労選択支援は完全に同一です。
違うのは就労定着支援だけで、しかも2点です。準用する条文が訪問系のものになるためです。
| 就労移行・A型・B型・就労選択支援 | 就労定着支援 | |
|---|---|---|
| 衛生管理の根拠 | 第90条(生活介護章) | 第34条(居宅介護章) |
| 研修の対象 | 感染症及び食中毒 | 感染症のみ12 |
| 勤務体制・ハラスメントの根拠 | 第68条 | 第33条 |
就労定着支援は訪問中心のサービスで事業所内での食事提供を前提としないため、食中毒が研修対象に入りません。内容そのものは第68条と第33条でほぼ同じです。
頻度も変わります。 就労定着支援が準用する第34条の解釈は居宅介護の項によるため、感染症の研修・訓練は年1回以上です13。就労系(第90条=療養介護と同趣旨)の年2回以上とは異なります。
準用の対応表#
| 条文 | 移行 | A型 | B型 | 定着 | 就労選択 |
|---|---|---|---|---|---|
| 業務継続計画(33の2) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 身体拘束等の禁止(35の2) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 虐待の防止(40の2) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 衛生管理等 | 90条 | 90条 | 90条 | 34条 | 90条 |
| 勤務体制の確保等 | 68条 | 68条 | 68条 | 33条 | 68条 |
いずれも各サービスの準用規定(就労移行=第184条、A型=第197条、B型=第202条、就労定着支援=第206条の12、就労選択支援=第173条の9)によります14。
ハラスメント防止は「研修」ではなく「措置」#
第68条・第33条は、適切なサービス提供を確保する観点から、職場において行われる性的な言動又は優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより従業者の就業環境が害されることを防止するための方針の明確化等の必要な措置を講じなければならないと定めています1015。
条文が求めているのは方針の明確化等の措置であって、研修の実施そのものではありません。ただし措置の一環として研修を行うのが一般的です。
なお労働施策総合推進法・労働安全衛生法など171号の外にある事業主としての義務(衛生委員会、ストレスチェック等)は本記事の範囲外です。従業員数などの条件で適用が変わるため、別途確認してください。
減算とのつながり#
義務を果たさない場合、次の減算につながります。
| 未実施 | 減算 |
|---|---|
| 虐待防止措置 | 虐待防止措置未実施減算(所定単位数の1%) |
| 身体拘束廃止 | 身体拘束廃止未実施減算(所定単位数の1%) |
| 業務継続計画 | 業務継続計画未策定減算 |
研修の実施記録は、運営指導で確認される対象です。記録の保存については障害福祉の記録|サービス提供記録と実績記録票の違いを参照してください。
よくある質問#
Q. 義務研修は年に何回やればよいですか?#
条文は「定期的に」としか書いていませんが、解釈通知が回数を定めています。就労系(就労移行・A型・B型・就労選択支援)では、虐待防止・身体拘束等の適正化・BCPが年1回以上、感染症だけが年2回以上です1357。いずれも新規採用時の実施は別枠とされています135。
Q. 研修だけやれば要件を満たしますか?#
満たさないものがあります。虐待防止は委員会+研修+担当者の設置、身体拘束等の適正化は委員会+指針+研修、感染症は委員会+指針+研修及び訓練がセットです246。
Q. 感染症は研修だけでよいですか?#
訓練も必要です。第90条は「研修並びに訓練を定期的に実施すること」と定めており6、解釈通知は研修・訓練とも年2回以上としています5。業務継続計画(第33条の2)と非常災害対策(第70条)も訓練が必要です89。
なお解釈通知は、BCPに係る研修・訓練は感染症の研修・訓練と一体的に実施しても差し支えないとしています7。訓練の手法は机上を含めて問わないものの、机上と実地を適切に組み合わせることが適切とされています57。
Q. サービスごとに研修義務は違いますか?#
就労移行支援・A型・B型・就労選択支援は完全に同一です。就労定着支援のみ、衛生管理が第34条(感染症のみ・食中毒を含まない・年1回以上)、勤務体制が第33条になります12151413。
Q. サビ管研修やジョブコーチ養成研修も義務研修ですか?#
別物です。それらは修了すると報酬区分や加算に影響する研修で、本記事で扱う義務研修は実施しないと減算・指摘の対象になる研修です。サビ管の研修体系はサビ管研修制度の全体像を参照してください。
Q. 委員会はオンラインで開催できますか?#
虐待防止・身体拘束等の適正化・感染症のいずれも、条文にテレビ電話装置等を活用して行うことができる旨が明記されています246。
Q. ハラスメント防止の研修は義務ですか?#
条文が求めているのは方針の明確化等の必要な措置であり、研修の実施そのものではありません10。措置の一環として研修を行うことは一般的です。
関連記事#
- 虐待防止措置未実施減算を防ぐ社内体制構築|委員会・指針・研修の3つの義務
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- 障害福祉の事故対応と苦情解決
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- サビ管研修制度の全体像
Footnotes#
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厚生労働省「指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」(解釈通知・障発第1206001号/令和6年度改正 新旧対照表)虐待の防止=「定期的な研修を実施(年1回以上)するとともに、新規採用時には必ず虐待防止の研修を実施することが重要」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001472116.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第40条の2(虐待の防止)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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同通知 身体拘束等の適正化=「定期的な研修を実施(年1回以上)するとともに、新規採用時には必ず身体拘束等の適正化の研修を実施することが重要」 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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同令 第35条の2(身体拘束等の禁止)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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同通知 第四の3の(20)(療養介護の衛生管理等)=研修は「定期的な教育(年2回以上)」、訓練は「訓練(シミュレーション)を定期的(年2回以上)に行うことが必要」 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
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同令 第90条(衛生管理等・生活介護章。就労移行支援・A型・B型・就労選択支援が準用)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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同通知 業務継続計画=「定期的(年1回以上)な教育を開催するとともに、新規採用時には別に研修を実施することが望ましい」「訓練(シミュレーション)…を定期的(年1回以上)に実施」「感染症の業務継続計画に係る研修については、感染症の予防及びまん延の防止のための研修と一体的に実施することも差し支えない」 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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同令 第33条の2(業務継続計画の策定等)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3
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同令 第70条(非常災害対策)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
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同令 第68条(勤務体制の確保等・療養介護章。就労移行支援・A型・B型・就労選択支援が準用)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3
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同通知「衛生管理等(基準第90条)指定療養介護の場合と同趣旨であるため、第四の3の(20)を参照されたい」 ↩
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同令 第34条(衛生管理等・居宅介護章。就労定着支援が準用)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
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同通知 第三の3(居宅介護)の衛生管理等=「定期的な教育(年1回以上)」「訓練(シミュレーション)を定期的(年1回以上)に行うことが必要」 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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同令 第173条の9(就労選択支援)、第184条(就労移行支援)、第197条(就労継続支援A型)、第202条(就労継続支援B型)、第206条の12(就労定着支援)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
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同令 第33条(勤務体制の確保等・居宅介護章。就労定着支援が準用)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2