就労継続支援A型では、記録システムの打刻を15分単位などで丸める「まるめ打刻」を求める声があります。毎日生じる数分のズレを手作業で直す負担がなくなるためです。ただしA型の利用者は労働基準法上の労働者です。さらに、打刻がサービス提供実績の記録と賃金計算の両方の基礎になっている場合、丸めの影響は労務の範囲にとどまりません。本記事では、打刻を丸めると何に触れるのかを、国のガイドラインと通知に基づいて整理します。
結論|丸めはどちらの方向でも認められない#
丸めは、方向を問わず認められません。厚生労働省のガイドラインは、始業・終業時刻をタイムカード等の客観的な記録を基礎として適正に記録することを求めています1。端数処理も日ごとに行うことはできないとされています2。
切り捨てれば、実際に働いた時間の一部に賃金が支払われず、賃金の全額払いの原則に反します3。労働基準監督署には「残業が15分単位で切り捨てられる」といった相談が実際に寄せられています2。A型ではさらに、基本報酬を決めるスコアの「労働時間」が短くなり、区分の境界をまたげば報酬も減ります4。切り上げて賃金を払えば、不払いにはなりません。しかしスコアの労働時間は「実際に利用者が労働した時間数」と定められているため4、働いていない時間を計上すれば基本報酬の過大な算定になります。
賃金か報酬か、どちらかが必ず実態から外れます。丸める方向を変えても逃げ場はありません。
A型利用者は労働基準法上の労働者#
厚生労働省は、就労継続支援事業の利用者の労働者性について次のように整理しています5。
| 区分 | 労働者性 |
|---|---|
| A型利用者(雇用有) | 労働基準法上の労働者。雇用にあたって労働基準関係法令を遵守する |
| A型利用者(雇用無)・B型利用者 | 労働者ではない |
したがって、以下の労働時間の記録に関する規律は、A型利用者(雇用有)に適用されます。B型利用者は通知上、労働者として扱われていないため前提が異なります。B型で問われるのは、出欠・作業時間・作業量が利用者の自由であるかという労働者性の論点です5。詳しくは就労継続支援B型の労働者性を参照してください。
労働時間の記録に求められること#
厚生労働省のガイドラインは、使用者が労働時間を適正に把握する責務を負うことを明示したうえで、始業・終業時刻の確認と記録の方法を定めています1。
客観的な記録を基礎に、適正に記録する#
ガイドラインが原則として示す方法は次の2つです1。
- 使用者が自ら現認(その場で直接確認)して、適正に記録すること
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
記録システムの打刻は、後者の「客観的な記録」にあたります。求められているのはそれを基礎に適正に記録することであり、一定の単位に丸めて記録することは想定されていません。
自己申告制による場合も、申告された労働時間が実際と合っているか必要に応じて実態調査を行い、ずれがあれば補正することが求められます。事業場内にいた時間のデータと申告に著しい乖離があるときも同様です1。求められているのは記録を実態に近づける措置であり、実態から離す処理は想定されていません。
記録は保存義務の対象#
労働時間の記録に関する書類は、労働基準法第109条の「その他労働関係に関する重要な書類」にあたります。対象には労働者名簿と賃金台帳のほか、出勤簿、タイムカード等の労働時間の記録、残業命令書及びその報告書などが含まれます1。
保存期間は、第109条の本則では5年間です。ただし附則により、当分の間は「五年間」を「三年間」と読み替える経過措置が置かれています6。ガイドラインが「3年間」と記載しているのは、この経過措置に対応するものです1。
打刻の元データを残さず丸めた値だけを保存する運用は、この保存義務の観点からも避けるべきです。
丸めると何が起きるか#
切り捨てた分の賃金が支払われない#
労働基準法第24条は、賃金について次のように定めています3。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
切り捨て方向の丸めを行えば、実際に労働した時間の一部に対して賃金が支払われないことになります。これは全額払いの原則に反します。丸めの単位が15分でも、毎日発生すれば月単位では相当の時間になります。
月末の端数処理は別の話#
端数処理には、賃金不払いの法違反として取り扱わないとされている範囲があります。対象は1か月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計で、1時間未満の端数がある場合に30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる処理です2。
ただし、この取扱いは日ごとに端数処理することはできませんと明示されています2。月単位の集計に対する処理であり、対象も時間外労働等の合計に限られます。日々の打刻や所定内労働時間を丸める根拠にはなりません2。
賃金台帳の記載が実態と食い違う#
ガイドラインは賃金台帳についても踏み込んでいます1。
使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。 また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されること。
丸めた時間をそのまま賃金台帳に記載すれば、実際の労働時間とは異なる数字を記入することになります。
A型ならではの影響#
スコアの「労働時間」が短くなる#
A型の基本報酬はスコア方式で決まり、その評価項目の一つが「労働時間」です。1日の平均労働時間により評価され、点数は次のように区分されています4。
| 1日の平均労働時間 | 点数 |
|---|---|
| 7時間以上 | 90点 |
| 6時間以上7時間未満 | 80点 |
| 5時間以上6時間未満 | 65点 |
| 4時間30分以上5時間未満 | 55点 |
| 4時間以上4時間30分未満 | 40点 |
| 3時間以上4時間未満 | 30点 |
| 2時間以上3時間未満 | 20点 |
| 2時間未満 | 5点 |
ここで用いる労働時間について、通知は「実際に利用者が労働した時間数の前年度の総計」と定めています4。休憩時間や遅刻、早退、欠勤などにより実際に労働していない時間で、賃金の支払いが生じないものは含めません4。一方、年次有給休暇や面談の時間でも、労働時間として賃金を支払っている場合は含めます4。算入の可否は、実際に労働したかどうかと、賃金を支払っているかどうかで決まる構造です。
切り捨て方向の丸めを行うと、平均労働時間は実際より短く算出されます。たとえば1日6時間勤務の事業所が毎日15分ずつ切り捨てれば5時間45分となり、80点の区分から65点の区分に落ちます。境界から離れていれば影響は生じませんが、境界付近の事業所には実害があります。
逆に、切り上げ方向に丸める運用や、遅刻を所定始業時刻に丸め上げる運用では、実際には労働していない時間を計上することになります。通知は遅刻や早退による不就労時間を労働時間に含めないと定めているため4、丸め上げた分を含めれば平均労働時間が実際より長く算出され、基本報酬の過大な算定につながります。
記録は利用者の確認を受ける書類でもある#
指定基準省令は、サービスを提供した際に提供日・内容その他必要な事項を提供の都度記録し、その記録について支給決定障害者等(利用者本人等)から確認を受けることを求めています。この規定はA型に準用されます7。
記録システムの打刻がサービス提供実績の時間も兼ねている場合、丸めた時間がそのまま利用者の確認を受ける書類に載ります。実際とは異なる時間を利用者に確認させることになり、確認を求めている制度の趣旨と整合しません。詳しくはサービス提供記録と実績記録票の違いを参照してください。
記録を歪めずに手間を減らす#
丸めの要望の背景には、毎日発生する数分のズレを手で修正する負担があります。記録の正確性を保ったまま負担を減らすには、次のような整理ができます。
- 打刻そのものは必ず残す。修正や補正をするときも、元の打刻を上書きしない
- 所定時刻を初期値として表示し、職員は所定時刻とのズレだけを確認する
- ズレのある日をまとめて確認・修正できるようにする
- 始業前に到着した時間の扱いは、丸めではなく労働時間をどこから数えるかの問題として整理する。使用者の指揮命令下に置かれていた時間は労働時間として扱う必要があります1
実務チェックリスト#
- 打刻の元データを保存しているか。丸めた値だけを残していないか
- 賃金台帳の労働時間数が、実際の労働時間と一致しているか1
- 労働時間の記録に関する書類を保存しているか(本則5年・当分の間3年)6
- スコアの「労働時間」を、実際に労働した時間数から算出しているか4
- 実際には労働していない時間を、丸めによって労働時間に計上していないか4
- サービス提供実績の時間が実態と一致し、利用者の確認を受けられる状態か7
よくある質問#
Q. 15分単位で打刻を丸めることはできますか?#
できません。ガイドラインは客観的な記録を基礎に適正に記録することを求めており1、切り捨てれば賃金の不払い3、切り上げればスコアの労働時間の過大計上4になります。
Q. 勤怠管理システムに丸め機能がありますが、使ってよいのですか?#
機能があることと、その運用が認められていることは別です。日ごとの端数処理はできないとされており2、丸めた記録で賃金を計算すれば不払いにつながります3。
Q. B型でも同じ問題が起きますか?#
B型の利用者は通知上、労働者として扱われていないため、労働時間の規律は前提が異なります5。ただし出欠・作業時間・作業量が利用者の自由であることが求められ5、記録が利用者の確認を受ける書類である点は同じです7。
Q. 丸めるとA型のスコアはどうなりますか?#
切り捨てれば平均労働時間が短くなり、区分の境界をまたぐと点数が下がります。切り上げれば実際より長く算出され、基本報酬の過大な算定になります。スコアの労働時間は「実際に利用者が労働した時間数」と定められているためです4。
Q. 月末にまとめて端数を処理することはできませんか?#
時間外労働・休日労働・深夜労働の各々の月合計に限り、1時間未満の端数について30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる処理が認められています2。日ごとの端数処理はできず、所定内労働時間も対象外なので、日々の打刻を丸める根拠にはなりません2。
関連記事#
制度上の根拠#
- 就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項について(障障発第1002003号)5
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(基発0120第3号)1
- 労働基準法第24条(賃金の支払)3
- 厚生労働大臣の定める事項及び評価方法の留意事項について(A型スコア留意事項通知)4
- 指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第19条・第197条7
- 労働時間・割増賃金の端数処理の取扱い(昭和63年3月14日付け基発第150号)2
- 労働基準法第108条(賃金台帳)・第109条(記録の保存)・附則の経過措置6
Footnotes#
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厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(基発0120第3号・平成29年1月20日)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/8_sankou4.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
-
厚生労働省山口労働局「労働時間の適正な把握と端数処理」(昭和63年3月14日付け基発第150号の取扱いを含む周知資料)https://jsite.mhlw.go.jp/yamaguchi-roudoukyoku/content/contents/001988747.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
-
労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条(賃金の支払)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
厚生労働省「厚生労働大臣の定める事項及び評価方法の留意事項について」(障発0330第5号・令和7年3月31日障発0331第28号改正版)p.8 https://www.mhlw.go.jp/content/001473459.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
-
厚生労働省「就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項について」(障障発第1002003号・平成18年10月2日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb4762&dataType=1&pageNo=1 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
労働基準法(昭和22年法律第49号)第108条(賃金台帳)、第109条(記録の保存)、附則第143条第1項(第109条の「五年間」を当分の間「三年間」とする経過措置)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 ↩ ↩2 ↩3
-
指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第19条(サービスの提供の記録)、第197条(就労継続支援A型における準用)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4