障害福祉の「記録」は2種類ある#
事業所が残す記録には、性格のまったく違う2種類があります。運営指導で問われるのは前者、報酬請求で必要なのは後者です。両者を混同すると「請求はできているのに運営指導で指摘される」という状態になります。
| サービスの提供の記録 | サービス提供実績記録票 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 指定基準省令(運営基準)第19条 | 請求命令附則第2条第2項(事務処理要領で様式を規定) |
| 目的 | 支援を提供した事実と内容を残す | 報酬請求の内容の詳細を明らかにする |
| 作成の単位 | サービス提供の都度 | 利用者1人につき1月に1件 |
| 利用者の関与 | 提供したことについて確認を受ける必要がある | — |
| 提出先 | 提出しない(事業所で保存) | 明細書に添付して提出 |
| 保存 | 提供した日から5年間 | 同左 |
サービスの提供の記録(運営基準上の義務)#
指定基準省令は、サービスを提供した際に提供日・内容その他必要な事項を、提供の都度記録しなければならないと定めています。さらに、記録に際しては利用者から「提供したこと」について確認を受けなければならないとされています1。
ポイントは「都度」です。月末にまとめて作成する運用は条文の求めるところではありません。
就労系サービスへの適用#
この規定は居宅介護について定められたものですが、就労系の各サービスに準用されています2。
| サービス | 準用の根拠 |
|---|---|
| 就労移行支援 | 第184条(第19条を準用) |
| 就労継続支援A型 | 第197条(第19条を準用) |
| 就労継続支援B型 | 第202条(第19条を準用) |
| 就労選択支援 | 第173条の9(第9条から第20条までを準用) |
| 就労定着支援 | 第206条の12(第9条から第23条までを準用) |
5年間保存が必要な記録の6分類#
「記録の整備」の規定は、保存すべき記録を6つに列挙しています。実務では、このリストがそのまま運営指導のチェックリストになります3。
| # | 記録 | 根拠となる規定 |
|---|---|---|
| 1 | 個別支援計画 | 第58条第1項(就労系では「就労継続支援B型計画」等に読替) |
| 2 | サービスの提供の記録 | 第19条第1項 |
| 3 | 市町村への通知に係る記録 | 第88条(B型では第202条の読替による) |
| 4 | 身体拘束等の記録 | 第35条の2第2項 |
| 5 | 苦情の内容等の記録 | 第39条第2項 |
| 6 | 事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録 | 第40条第2項 |
保存期間の起算点は「提供した日」#
条文は「当該サービスを提供した日から五年間保存しなければならない」と定めています3。契約の終了日や「完結の日」ではありません。起算点を取り違えると、まだ保存義務のある記録を廃棄してしまうおそれがあります。
従業者・設備・備品・会計の記録も対象#
上記6分類とは別に、従業者、設備、備品及び会計に関する諸記録を整備しておく義務があります(第75条第1項)3。こちらには年限の定めが置かれていません。
サービスによる違い#
| サービス | 記録の整備の根拠 | 備考 |
|---|---|---|
| 就労移行支援・A型・B型 | 第75条を準用(第184条/第197条/第202条) | 6分類すべて |
| 就労選択支援 | 第75条を準用(第173条の9)。ただし第2項第1号を除く2 | 個別支援計画の記録が対象外 |
| 就労定着支援 | 第206条の11(独自の規定) | ①提供した記録②就労定着支援計画③市町村への通知④苦情⑤事故 の5分類4 |
6分類それぞれの中身#
市町村への通知に係る記録#
次のいずれかに当たる場合、遅滞なく、意見を付して市町村に通知しなければなりません5。
- 正当な理由なしにサービスの利用に関する指示に従わないことにより、障害の状態等を悪化させたと認められるとき
- 偽りその他不正な行為によって介護給付費又は特例介護給付費を受け、又は受けようとしたとき
身体拘束等の記録#
緊急やむを得ない場合を除き身体拘束等は禁止です。やむを得ず行う場合は、態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録します6。
あわせて適正化のための3措置が義務づけられています6。
- 適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、結果を従業者に周知徹底(テレビ電話装置等の活用可)
- 適正化のための指針を整備
- 従業者に対する適正化のための研修を定期的に実施
苦情の内容等の記録#
苦情に迅速かつ適切に対応するため、窓口を設置する等の必要な措置を講じ、苦情を受け付けた場合はその内容等を記録します7。
さらに、市町村・都道府県知事等が行う報告命令・質問・検査・調査に応じて協力し、指導又は助言を受けた場合はそれに従って必要な改善を行い、求めがあれば改善内容を報告する義務があります。社会福祉法上の運営適正化委員会が行う調査・あっせんにもできる限り協力します7。
事故の状況及び処置の記録#
事故が発生した場合は、都道府県、市町村、利用者の家族等に連絡するとともに必要な措置を講じ、事故の状況と採った処置を記録します。賠償すべき事故が発生した場合は損害賠償を速やかに行う必要があります8。
サービス提供実績記録票(請求書類)#
実績記録票は、明細書を市町村に提出する際に添付する「提供した障害福祉サービスの内容の詳細を明らかにすることができる資料」として定められたものです9。
作成の3つのルール#
事務処理要領は、実績記録票の作成について次の3点を定めています9。
- 一事業所(事業所番号単位)の利用者1人につき、1月に1件作成する
- 1枚の実績記入欄に記入しきれない場合は、何枚中の何枚目であるかを所定欄に記載して複数枚に分ける。この際、2枚目以降は受給者証番号・事業所番号以外の記載を省略して差し支えない
- 1人の利用者について同一月分・同一様式の実績記録票を、2件に分けて作成することはできない(上記2の場合を除く)
就労系の様式#
| サービス | 実績記録票の様式 |
|---|---|
| 就労移行支援 | 様式16 |
| 就労継続支援(A型・B型) | 様式17 |
| 就労定着支援 | 様式22 |
出典10。なお療養介護については実績記録票の提出は要しないとされていますが、この場合も診療録等により運営基準に定めるサービス提供の実績を記録し、保管する必要があります10。就労選択支援は令和7年10月創設のサービスであるため、様式は指定権者が公開する最新の様式一覧で確認してください。
請求時に提出する書類#
介護給付費・訓練等給付費等を請求する事業者が提出する書類は次のとおりです11。
| 書類 |
|---|
| 介護給付費・訓練等給付費等請求書(命令様式第一) |
| 介護給付費・訓練等給付費等明細書(命令様式第二) |
| 訓練等給付費等明細書(命令様式第三) |
| 地域相談支援給付費明細書(命令様式第五) |
| サービス提供実績記録票 |
利用者が利用者負担上限額管理の対象者である場合は、請求明細書に実績記録票と利用者負担上限額管理結果票の両方を添付します。
運営指導で見られるポイント#
記録は運営指導・監査で最初に確認される対象です。次の点は条文から直接導かれるため、指摘されると反論が難しい部分です。
| 論点 | 条文上の要求 |
|---|---|
| 記録の作成時点 | 提供の都度(月末一括ではない)1 |
| 利用者の確認 | 提供したことについて確認を受ける1 |
| 保存期間の起算点 | 提供した日から5年間3 |
| 苦情の記録 | 苦情がゼロでも窓口設置等の措置は必要7 |
| 事故の記録 | 連絡・必要な措置に加えて状況と処置の記録8 |
| 身体拘束の記録 | 態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由まで6 |
よくある質問#
Q. サービス提供実績記録票を残しておけば、サービスの提供の記録は不要ですか?#
不要にはなりません。実績記録票は請求のために提供日や算定回数の実績を示す書類であり、運営基準が求める「提供日、内容その他必要な事項」の記録とは目的も内容も異なります19。両方が必要です。
Q. 記録は月末にまとめて作成してもよいですか?#
条文は「提供の都度記録しなければならない」と定めています1。月末一括の運用はこの要求を満たしません。
Q. 5年の保存期間はいつから数えますか?#
当該サービスを提供した日から5年間です3。契約終了日や年度末からではありません。
Q. 苦情が一件もない場合、何も記録がなくてもよいですか?#
苦情の「内容等の記録」は苦情を受け付けた場合の義務ですが、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置そのものは、苦情の有無にかかわらず講じておく必要があります7。
Q. 実績記録票が1枚に収まらない場合はどうしますか?#
「何枚中の何枚目」であるかを所定欄に記載して複数枚に分けます。2枚目以降は受給者証番号・事業所番号以外の記載を省略して差し支えありません。ただし、これ以外の理由で同一月・同一様式を2件に分けて作成することはできません9。
Q. 就労定着支援も6分類ですか?#
就労定着支援は第206条の11に独自の規定が置かれ、5分類(提供した記録・就労定着支援計画・市町村への通知・苦情・事故)です4。
関連記事#
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- 運営指導(実地指導)の流れと準備
- 監査で指摘されやすいポイントと対策
- 個別支援計画の作成と管理
Footnotes#
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指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第19条(サービスの提供の記録)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
同令 第173条の9(就労選択支援における準用)、第184条(就労移行支援における準用)、第197条(就労継続支援A型における準用)、第202条(就労継続支援B型における準用)、第206条の12(就労定着支援における準用)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
-
同令 第75条(記録の整備)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
同令 第206条の11(就労定着支援の記録の整備)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
-
同令 第88条(支給決定障害者に関する市町村への通知)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩
-
同令 第35条の2(身体拘束等の禁止)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3
-
同令 第39条(苦情解決)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
同令 第40条(事故発生時の対応)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
-
厚生労働省「介護給付費等に係る支給決定事務等について」(事務処理要領・令和8年7月版)p.210 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001721666.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
厚生労働省「介護給付費等に係る支給決定事務等について」(事務処理要領・令和8年7月版)p.211 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001721666.pdf ↩ ↩2
-
厚生労働省「介護給付費等に係る支給決定事務等について」(事務処理要領・令和8年7月版)p.188 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001721666.pdf ↩