福祉・介護職員等処遇改善加算(以下「処遇改善加算」)で上位区分を算定できるかどうかは、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴをどこまで満たしているかでほぼ決まります。キャリアパス要件は「賃金を上げること」ではなく、任用・賃金・研修・昇給の仕組みを規程として整備し、全職員に周知しているかを問う要件です。
本記事では、令和8年度分の事務処理手順通知(障障発0331第1号/こ支障第78号・令和8年3月31日)に基づき、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴの中身と、令和8年度限りの猶予(誓約)の取扱いを整理します。
結論:キャリアパス要件は5つ。加算区分ごとに必要な範囲が違う#
処遇改善加算Ⅰ(令和8年6月以降は加算Ⅰイ)の算定には、賃金改善の実施に加えて①〜⑦の要件をすべて満たす必要があります。区分が下がるごとに、上位の要件が順に免除される構造です1。
| 要件 | 加算Ⅳ | 加算Ⅲ | 加算Ⅱ(イ・ロ) | 加算Ⅰ(イ・ロ) |
|---|---|---|---|---|
| ①月額賃金改善要件(加算Ⅳの加算額の1/2以上を基本給等へ) | ✅ | ✅ | ✅ | ✅ |
| ②キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系の整備等) | ✅ | ✅ | ✅ | ✅ |
| ③キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等) | ✅ | ✅ | ✅ | ✅ |
| ④キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組みの整備等) | ー | ✅ | ✅ | ✅ |
| ⑤キャリアパス要件Ⅳ(改善後の年額賃金要件) | ー | ー | ✅ | ✅ |
| ⑥キャリアパス要件Ⅴ(配置等要件) | ー | ー | ー | ✅ |
| ⑦職場環境等要件 | ✅ | ✅ | ✅ | ✅ |
令和8年6月以降に新設された上乗せ区分(加算Ⅰロ・Ⅱロ)は、それぞれ加算Ⅰイ・Ⅱイの要件に加えて⑧令和8年度特例要件(生産性向上または協働化の取組)を満たすことが必要です1。
キャリアパス要件Ⅰ|任用要件・賃金体系の整備等#
次の3つをすべて満たすことが必要です2。
- 福祉・介護職員の任用の際における職位・職責・職務内容等に応じた任用等の要件(賃金に関するものを含む)を定めていること
- 1の職位・職責・職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く)について定めていること
- 1・2の内容について就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての福祉・介護職員に周知していること
常時雇用する者の数が10人未満の事業所など、労働法規上の就業規則の作成義務がない事業所では、就業規則の代わりに内規等の整備・周知により3の要件を満たすこととして差し支えありません2。
つまり、等級(職位)と賃金がひも付いた規程が書面で存在し、職員がそれを見られる状態になっていることが要件です。制度を作っただけで周知していない、というのが最も多い不備です。
キャリアパス要件Ⅱ|研修の実施等#
次の2つを満たすことが必要です2。
- 一 福祉・介護職員の職務内容等を踏まえ、福祉・介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標および次のaまたはbに関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施または研修の機会の確保をしていること
- a. 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供または技術指導等(OJT、OFF-JT等)を実施するとともに、福祉・介護職員の能力評価を行うこと
- b. 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること
- 二 一の内容について、全ての福祉・介護職員に周知していること
要件はaまたはbのいずれかで足りますが、aを選ぶ場合は「研修の実施」だけでなく「能力評価」までがセットである点に注意してください2。研修の実施形態(自法人研修・外部研修・eラーニング等)は通知上限定されていません。要件の中心は、職員と意見交換して作った資質向上の計画があることと、それが周知されていることです。
研修の「内容」はどこまで問われるか#
通知は科目・時間数・カリキュラム・実施形態を一切列挙していません。「この研修でなければ要件を満たさない」という指定はなく、自法人研修・外部研修・eラーニングのいずれでも構いません。ただし完全に自由なわけではなく、次の3つの縛りがあります。
| 縛り | 通知の規定 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 職務との関連 | 「福祉・介護職員の職務内容等を踏まえ、…資質向上の目標」2 | 職務と関係のない内容は資質向上の目標に位置づけられません。逆に、職務に紐づけて説明できれば科目は問われません |
| 計画との対応 | 「当該計画に係る研修の実施又は研修の機会の確保」2 | 計画に無い研修をいくら実施しても要件上は評価されません。計画と実施が対応していることが要件の本体です |
| 内容の申告 | 別紙様式2-2・2-3に「一の実現のための具体的な取組内容(該当する項目にチェックした上で、具体的な内容を記載)」欄がある3 | 科目の指定はありませんが、何を実施したかは計画書・実績報告書に記載して指定権者に提出します |
⚠️ 法定研修とは別制度です。虐待防止・身体拘束適正化・感染症対策・業務継続計画(BCP)などの研修は、指定基準省令に基づく運営上の義務で、内容も実施回数も定められています(実施しなければ減算の対象です)。キャリアパス要件Ⅱは加算の要件であり、両者は目的も根拠も別です。義務研修の一覧は障害福祉の義務研修・訓練 一覧で解説しています。
キャリアパス要件Ⅲ|昇給の仕組みの整備等#
経験・資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設け、就業規則等の根拠規程を書面で整備して全職員に周知することが必要です。具体的には、次のa〜cのいずれかに該当する仕組みであることを要します4。
| 型 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| a. 経験に応じて昇給 | 「勤続年数」「経験年数」などに応じて昇給する仕組み | ー |
| b. 資格等に応じて昇給 | 介護福祉士等の資格取得や実務者研修等の修了状況に応じて昇給する仕組み | 別法人等で資格を取得した上で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることを要する |
| c. 一定の基準に基づき定期に昇給を判定 | 「実技試験」「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組み | 客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることを要する |
要件Ⅰと同様、常時雇用する者が10人未満の事業所では内規等の整備・周知でも差し支えありません4。
キャリアパス要件Ⅳ|改善後の年額賃金要件(460万円)#
経験・技能のある福祉・介護職員のうち1人以上について、賃金改善後の賃金の見込額(処遇改善加算による賃金改善の見込額を含む)が年額460万円以上であることが必要です。処遇改善加算による賃金改善以前の賃金が年額460万円以上である者は、この「1人」には算入しません4。
- 「経験・技能のある福祉・介護職員」とは、介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・保育士のいずれかの資格を有し、所属する法人等における勤続年数10年以上の職員を基本としつつ、他法人での経験や業務・技能等を踏まえ、各事業者の裁量で設定します5。
- ⑦職場環境等要件について全体から14以上の取組を実施している場合は、キャリアパス要件Ⅳを満たしているものとされます4。
※ 金額は令和8年6月以降の基準です。令和8年4月・5月分の算定に係る要件は年額440万円でした6。
キャリアパス要件Ⅴ|配置等要件#
福祉専門職員配置等加算(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護にあっては特定事業所加算)の届出を行っていることが要件です7。加算Ⅰ(Ⅰイ・Ⅰロ)のみに求められます。
ただし、重度障害者等包括支援、施設入所支援、短期入所、就労定着支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援は配置等要件に関する加算がないため、配置等要件は不要です7。
令和8年度限りの「誓約」による猶予#
令和8年度は、処遇改善計画書で令和9年3月末までに整備等を行うことを誓約すれば、申請時点から当該要件を満たしているものとして取り扱われます。誓約した場合は、令和9年3月末までに実際に整備を行い、実績報告書でその旨を報告する必要があります。ただし、誓約が使える範囲は要件ごとに異なります。
| 要件 | 誓約による猶予 |
|---|---|
| キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ | ⑧令和8年度特例要件を満たす事業所に限り、令和9年3月末までの整備を誓約すれば申請時点から要件を満たす扱い24 |
| キャリアパス要件Ⅳ | 特例要件の有無を問わず、令和9年3月末までに賃金改善を行うこと、または職場環境等要件について全体から14以上の取組を行うことの誓約で可7 |
| 職場環境等要件 | ⑧令和8年度特例要件を満たす事業所に限り誓約で可。ただし加算Ⅲ・Ⅳの「全体で8以上の取組」は全ての事業所が誓約で可7 |
⑧令和8年度特例要件は、次の(ア)または(イ)に加えて(ウ)を満たすことです8。
- (ア) 職場環境等要件のうち「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」から5以上(うち⑱および㉑は必須)を実施すること
- (イ) 事業所が所属する法人が、社会福祉連携推進法人に所属していること
- (ウ) 処遇改善加算Ⅱロの加算額の2分の1以上を基本給等の改善に充てること
相談支援は令和8年6月から加算の対象に(表1-4のサービス)#
計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援(地域移行・地域定着)は、令和8年4月・5月は処遇改善加算の算定対象外でしたが、令和8年6月以降は加算率5.1%で算定対象となりました9。
これらのサービス(別紙1表1-4)では、賃金改善の実施に加えて、次の①または②のいずれかを満たせば算定できます810。
- ① 令和8年度特例要件:通知本文では「生産性向上の取組5以上(⑱・㉑必須)」または「社会福祉連携推進法人への所属」とされています10。ただし処遇改善計画書のチェックリストでは、表1-4の事業所について「生産性向上の取組2以上(または社会福祉連携推進法人への所属)」に加えて「処遇改善加算の加算額の2分の1以上を基本給等の改善に充てる」ことと記載されています11。申請時は最新様式と指定権者の案内を必ず確認してください
- ② 処遇改善加算Ⅳの取得に準ずる要件:(ⅰ)キャリアパス要件Ⅰ、(ⅱ)キャリアパス要件Ⅱ、(ⅲ)職場環境等要件(5区分ごとに1以上+生産性向上の取組2以上。1法人1事業所のような小規模事業者は㉔の実施で可)のすべてを満たすこと12
②を選ぶ場合、要件の中身は加算Ⅰ〜Ⅳと同じ考え方ですが、対象が「福祉・介護職員」ではなく**「職員」**と定められている点が異なります10。
体制届出の期日は、令和8年6月以降に新たに算定する事業者では令和8年5月15日(都道府県知事等の判断で令和8年6月15日まで延長可)、処遇改善計画書の提出期日は令和8年6月15日です13。
実務チェックリスト#
- 職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を規程化し、書面で整備している2
- 上記を全職員に周知している(掲示・配布・イントラ等、周知の事実が確認できる形で)2
- 職員と意見交換したうえで、資質向上の目標と具体的な研修計画を策定している2
- 研修の実施または研修機会の確保を行い、a方式なら能力評価まで実施している2
- 昇給の仕組み(a経験/b資格/c評価のいずれか)を就業規則等に明文化している4
- b方式の場合、他法人で資格取得した中途採用者も昇給対象になる規定になっている4
- 加算Ⅰ・Ⅱを算定するなら、年額460万円以上の職員が1人以上いる(または職場環境等要件を全体で14以上実施)46
- 加算Ⅰを算定するなら、福祉専門職員配置等加算(訪問系は特定事業所加算)の届出を行っている7
- 誓約による猶予を使う場合、令和9年3月末までの整備と実績報告書での報告を予定に入れている247
変更届出が必要になるケース#
年度途中にキャリアパス要件の適合状況が変わった場合、次の届出が必要です14。
| 変更内容 | 提出書類 |
|---|---|
| キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅲの適合状況に変更があり、算定する加算区分が変わる場合 | 変更届出書(キャリアパス要件の変更に係る部分を記載)+別紙様式2-1の2および3(1)〜(5)、別紙様式2-2、別紙様式2-3 |
| キャリアパス要件Ⅴ(配置等要件)の適合状況に変更があり、算定する加算区分が変わる場合 | 変更届出書(配置等要件の変更内容を記載)+別紙様式2-1の3(5)、別紙様式2-2、別紙様式2-3 |
キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅲについては、加算区分の変更を伴わない場合は変更届出の対象外とされている点が実務上のポイントです14。
よくある質問#
Q. 研修は外部研修やeラーニングでもキャリアパス要件Ⅱを満たせますか?#
通知は「研修の実施又は研修の機会の確保」と規定しており、実施形態は限定されていません2。重要なのは、①職員と意見交換しながら資質向上の目標と具体的な計画を策定していること、②その計画に沿って研修機会の提供・技術指導等(OJT、OFF-JT等)を実施し能力評価まで行うこと(またはb方式として資格取得支援を実施すること)、③内容を全職員に周知していること、の3点です2。研修教材を導入しただけでは要件を満たさず、計画・評価・周知の書面が必要になります。
Q. 研修の内容や科目に指定はありますか?#
通知に科目・時間数・カリキュラムの指定はありません2。ただし①職務内容等を踏まえた資質向上であること、②策定した計画に係る研修であること、③具体的な取組内容を計画書・実績報告書に記載して提出すること3、の3点で縛られます。したがって「職務との関連を説明でき、計画に位置づけ、内容を書ける」研修であれば、科目は事業所が自由に選べます。なお、虐待防止・身体拘束適正化・感染症対策などの法定研修は指定基準省令に基づく別の義務で、内容も実施回数も定められています。
Q. 就業規則を作成していない小規模事業所でも要件Ⅰ・Ⅲを満たせますか?#
満たせます。常時雇用する者の数が10人未満の事業所など、労働法規上の就業規則の作成義務がない事業所では、就業規則の代わりに内規等を整備・周知することで要件を満たして差し支えないとされています24。
Q. 年額460万円の職員を確保できない場合、加算Ⅰ・Ⅱは諦めるしかないですか?#
いいえ。キャリアパス要件Ⅳは、職場環境等要件について全体から14以上の取組を実施している場合は満たしているものとされます4。なお、令和8年6月以降に加算Ⅰ・Ⅱを算定する場合の職場環境等要件は「区分ごとに2以上(生産性向上は3以上)+全体で14以上」とされています6。
Q. 中途採用者が前の法人で介護福祉士を取得していた場合、昇給の対象にしなくてもよいですか?#
対象にする必要があります。キャリアパス要件Ⅲのb(資格等に応じて昇給する仕組み)は、別法人等で介護福祉士等の資格を取得した上で当該事業者や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることを要件としています4。
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