福祉・介護職員等処遇改善加算を上位区分で取得できるかどうかは、賃金制度・評価制度が要件どおりに設計・明文化されているかで決まります。令和6年6月に旧3加算(処遇改善・特定処遇改善・ベースアップ等支援)が一本化され1、さらに令和8年6月改定で加算率の引上げと上乗せ区分(Ⅰロ・Ⅱロ)の新設が行われました2。
本記事では、事業所の経営者・管理者向けに、処遇改善加算の要件ラダーを賃金制度・就業規則にどう落とし込むかを、厚生労働省の事務処理手順・改定資料に基づいて解説します。
加算区分と要件のラダー(結論)#
一本化後の処遇改善加算は、下位区分の要件に積み上げる形で上位区分の要件が構成されています31。
| 区分 | 満たすべき要件(下位区分の要件+α) |
|---|---|
| 加算(Ⅳ) | キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)+Ⅱ(研修・能力評価)、月額賃金改善要件(加算Ⅳ相当の1/2以上を月額賃金で配分)、職場環境等要件 |
| 加算(Ⅲ) | +キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組みの整備) |
| 加算(Ⅱ) | +キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金年額440万円以上が1人以上)、職場環境の更なる改善・見える化 |
| 加算(Ⅰ) | +キャリアパス要件Ⅴ(経験・技能のある職員を一定割合以上配置。例: 生活介護は介護福祉士25%以上等) |
加算率はサービスごとに異なります(例: 令和6年度一本化時の生活介護でⅠ 8.1%〜Ⅳ 5.5%1、令和8年6月以降の就労選択支援でⅠイ11.5%〜Ⅳ8.1%4)。自事業所の率は最新の報酬算定構造で確認してください。
キャリアパス要件を賃金制度に落とし込む#
要件Ⅰ — 職位・職責の等級と賃金体系(制度の骨格)#
任用における職位・職責・職務内容等の要件を定め、それに応じた賃金体系を定め、これらを書面で整備して全職員に周知することが求められます3。実務では次の3点セットを作ります。
- 等級表(キャリアパス表) — 例: 一般職員→中堅職員→リーダー→管理者の各等級に、求められる役割・スキル・資格を定義
- 等級ごとの賃金表 — 基本給レンジや役職手当を等級に対応させる
- 就業規則(賃金規程)への反映と周知 — 制度は就業規則・賃金規程に規定し、全職員に周知して初めて要件を満たします
要件Ⅱ — 研修計画と能力評価#
資質向上のための計画を立て、計画に沿った研修機会の提供または技術指導等を実施し、能力評価を行うことが求められます3。年間研修計画(内部・外部)と、評価面談の記録を残す運用にします。
要件Ⅲ — 昇給の仕組み(3方式のいずれか)#
経験・資格・評価のいずれかに応じて昇給する仕組みを設け、明文化します3。
- 経験: 勤続年数・経験年数に応じた昇給(号俸表など)
- 資格: 介護福祉士・社会福祉士等の取得に応じた昇給・手当
- 評価: 実技試験や人事評価の結果に基づく昇給。客観的な評価基準と昇給条件の明文化が必要です3
要件Ⅳ・Ⅴ — 上位区分への挑戦#
月額賃金改善要件 — 一時金offsetの禁止#
新加算(Ⅳ)相当の加算額の1/2以上は、基本給または毎月決まって支払われる手当(月額賃金)で配分しなければなりません31。賞与や一時金だけで配分する設計は要件を満たしません。ベースアップとして基本給に組み込むか、毎月の処遇改善手当として支給する形を基本にします。
職場環境等要件#
「入職促進に向けた取組」「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」「両立支援・多様な働き方の推進」「腰痛を含む心身の健康管理」「やりがい・働きがいの醸成」の区分ごとに1以上、かつ生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組のうち2以上を実施する必要があります3。実施項目は処遇改善計画書にチェックし、実績報告で実施を確認されます。
令和8年6月改定 — 拡充と上乗せ区分(Ⅰロ・Ⅱロ)#
令和8年6月施行の改定で、処遇改善加算は次のとおり拡充されました2。
- 対象の拡大 — 福祉・介護職員のみから障害福祉従事者に拡大し、加算率を引上げ(月1.0万円・3.3%相当の賃上げ措置)
- 上乗せ区分の新設 — 生産性向上や協働化に取り組む事業者向けに加算Ⅰロ・Ⅱロを新設(月0.3万円・1.0%相当の上乗せ)。令和8年度特例要件=次のア・イのいずれか+ウを満たすこと
- ア)職場環境等要件の生産性向上に関する取組を5以上実施(必須項目あり)
- イ)社会福祉連携推進法人に所属していること
- ウ)加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上を月給賃金で配分
- 対象サービスの拡大 — これまで対象外だった計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援に処遇改善加算を新設
ア・ウの要件は令和8年度中の対応の誓約でも算定でき、実績報告書で実施が確認されます2。
設計・運用の実務ポイント#
- 「制度の明文化」が全要件の共通土台 — 等級表・賃金表・昇給基準・評価基準は、就業規則(賃金規程)や別規程として文書化し、周知記録を残す
- 毎年度の計画書・実績報告書を運用の起点に — 処遇改善計画書の作成→都道府県等への届出→実績報告という年次サイクルに、賃金改善額の集計(加算額以上の賃金改善、加算以外の部分で賃金水準を下げていないこと3)を組み込む
- 上位区分への移行はコスト試算とセットで — 440万円要件(Ⅱ)や配置要件(Ⅰ)、生産性向上5取組(ロ)は、人件費・体制への影響を試算した上で段階的に狙う
- 社労士・顧問との連携 — 賃金規程の改定は労働条件の変更を伴うため、不利益変更にならないよう専門家の確認を推奨します
よくある質問#
Q. 処遇改善加算の配分は福祉・介護職員に限られますか?#
一本化後は福祉・介護職員への配分を基本としつつ、事業所内での柔軟な職種間配分が認められています1。さらに令和8年6月改定で、加算の対象自体が障害福祉従事者に拡大されました2。
Q. 賞与で配分してもよいですか?#
一部は可能ですが、新加算(Ⅳ)相当の加算額の1/2以上は基本給または毎月の手当(月額賃金)で配分する必要があります31。ロ区分を算定する場合は、加算Ⅱロ相当額の1/2以上の月給配分が特例要件に含まれます2。
Q. 昇給の仕組みは人事評価制度でなければいけませんか?#
経験(勤続年数等)、資格、評価のいずれかに応じた昇給の仕組みであれば要件を満たします。評価方式を採る場合は、客観的な評価基準や昇給条件の明文化が必要です3。
Q. 令和8年度のⅠロ・Ⅱロはどうすれば取れますか?#
現にⅠ・Ⅱを算定している事業所が、生産性向上に関する取組5以上(または社会福祉連携推進法人への所属)と、加算Ⅱロ相当額の1/2以上の月給配分を満たすことで算定できます。令和8年度中の対応の誓約でも算定可能で、実績報告書で実施が確認されます2。
出典#
Footnotes#
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厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(処遇改善加算の一本化) https://www.mhlw.go.jp/content/001216034.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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厚生労働省・障害福祉サービス等報酬改定検討チーム「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(処遇改善加算の拡充) https://www.mhlw.go.jp/content/001680064.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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厚生労働省「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和7年改正版) https://www.mhlw.go.jp/content/001445512.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
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厚生労働省「障害福祉サービス費等の報酬算定構造(令和8年6月施行版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001696433.pdf ↩