就労継続支援B型の利用者は、事業所と雇用契約を結ばずに生産活動に参加します。このため制度は「B型利用者は労働基準法上の労働者ではない」という前提で組まれており、その前提が崩れないよう、厚生労働省は就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項(障障発第1002003号)で事業所に守るべき点を示しています1。出欠や作業時間を事業所の都合で固定する、欠勤した利用者の工賃を減らす、企業の担当者が直接指示を出す、といった運用はこの通知に抵触し、労働基準関係法令の適用について疑義が生じる原因になります。本記事では、通知が求める留意点と、実務で崩れやすい場面を整理します。
B型利用者は「労働者」ではない、という制度の前提#
就労継続支援A型は、事業者が利用者と雇用契約を締結しなければならないサービスです(第190条第1項)2。これに対してB型にはこの規定がなく、利用者は雇用契約を結ばずに生産活動に参加します。通知はこの違いを次のように整理しています1。
| 区分 | 労働者性 | 通知が求めること |
|---|---|---|
| A型利用者(雇用有) | 労働基準法上の労働者 | 雇用にあたって労働基準関係法令を遵守する |
| A型利用者(雇用無)・B型利用者 | 労働者ではない | 後述の4つの留意点を守る |
B型で利用者に支払われるのは賃金ではなく工賃です。事業者は、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払い、利用者ごとの1か月あたりの工賃の平均額は3,000円を下回ってはならないとされています(第201条第1項・第2項)3。
通知はまた、B型の利用が訓練等給付の事業の性格から、原則本人の希望に基づくものであること、最終的な利用の可否は暫定支給決定期間の仮利用の状況等を参考に市町村が決定することも確認しています1。「働く場」ではなく「本人の希望に基づく訓練等給付」であることが、以下の留意点の出発点です。
通知が求める4つの留意点#
通知は、A型利用者(雇用無)およびB型利用者について、次の4点を求めています1。
| # | 通知の要件 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| ア | 利用者の出欠、作業時間、作業量等が利用者の自由であること | 出勤日や作業時間を事業所や取引先の都合で固定し、守らせる運用は要件に反する |
| イ | 各障害者の作業量が予約された日に完成されなかった場合にも、工賃の減額、作業員の割当の停止、資格剥奪等の制裁を課さない | 納期に間に合わなかったことを理由に工賃を減らす、作業から外す、といったペナルティは不可 |
| ウ | 生産活動において実施する支援は作業に対する技術的指導に限られ、指揮監督に関するものは行わない | 職員の関わりは「やり方を教える」まで。「いつ・何を・どれだけやるか」を命じる関係にしない |
| エ | 利用者の技能に応じて工賃の差別が設けられていない | 技能の高い利用者に高い工賃を、低い利用者に低い工賃を、という差の付け方は不可 |
4つの要件は互いに独立しています。出欠の自由を守っていても、欠勤や納期遅れに制裁を課せばイに、企業の担当者が直接指示を出せばウに抵触します。
多機能型・A型併設で追加される3点#
A型(雇用有・雇用無)とB型の利用者が同じ事業所を利用する多機能型等では、次の3点が追加されます1。
- A型利用者(雇用有)、A型利用者(雇用無)、B型利用者が同一事業所内で作業する際は、それぞれの作業場所と作業内容を明確に区分し、混在して作業が行われないこと
- 勤務表・シフト表は別々に管理すること。A型利用者(雇用無)とB型利用者については、出欠・作業時間の自由が確保されていること
- A型利用者(雇用無)とB型利用者には労働者災害補償保険法の適用がないため、災害時の賠償手段として任意保険の加入の促進を図るとともに、労働安全衛生法を準用した安全衛生管理を極力行うこと
2点目は誤解されやすい箇所です。B型利用者の「シフト表」を作ること自体が禁じられているわけではなく、A型の勤務表と分けて管理し、そのうえで出欠・作業時間の自由が確保されている必要があります。B型のシフト表が「入ったら守らなければならない勤務表」になっていれば要件アに反します。
崩れやすい場面と、どの要件に当たるか#
| 場面 | 抵触する要件 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 取引先の納期に合わせ、出勤日と作業時間を利用者に固定して守らせる | ア(出欠・作業時間の自由) | 参加は利用者の希望を前提にし、休んでも不利益がない運用にする |
| 施設外就労で、就労先企業の都合で早朝や夕方の時間帯を固定し、休むと外す | ア・イ | 個別支援計画で時間帯を本人と合意し、欠席に制裁を課さない。詳細は施設外就労・施設外支援の要件 |
| 欠勤や納期遅れを理由に工賃を減額する、作業から外す | イ(制裁の禁止) | 工賃は生産活動の収入から経費を控除した額を配分するもので、ペナルティの手段にしない3 |
| 施設外就労先の企業の従業員が利用者に直接指示を出す | ウ(指揮監督の禁止) | 施設外就労では利用者への指導等は事業所が行い、企業の従業員と共同で作業を処理しないことが要件4 |
| 技能の高い利用者だけ工賃単価を上げる | エ(技能による工賃差別の禁止) | 工賃の計算方法は技能による差別にならない形にする |
| A型とB型の利用者を同じ作業場で混在させ、1枚のシフト表で管理する | 多機能型の追加要件 | 作業場所・作業内容を区分し、勤務表・シフト表を分ける |
施設外就労では、利用者と就労先企業の関係が「事業所の施設内で行われる作業の場合と同様であること」が求められています4。企業の現場に出ている間も、利用者を指導するのは事業所の職員であり、出欠や作業時間の自由も施設内と同じように保たれている必要があります。
苦情・疑義が出たときの流れ#
B型利用者から労働基準関係法令の適用について苦情や疑義が出た場合の対応も、通知が定めています1。
- 原則として指定基準に基づく苦情処理として、事業所が迅速に対応する
- 事業所内で解決できない場合は、市町村又は都道府県が最終的に処理方針を決定し、事業所に必要な指導を行う
- 労働基準監督署から市町村に照会があった場合、市町村は法第48条に基づき事業者から必要な書類の提出を求める等の状況把握を行い、連携して解決にあたる
- 利用者が労働基準監督署に申し出たことが事業所に明らかになると、利用契約の解除等の不利益を被るおそれがあるため、利用者本人の意思に反して個人情報が事業所に特定されないよう特段の配慮を行う
- 都道府県は必要に応じ法第49条に基づく勧告を行う
さらに通知は、支給決定更新時や監査時等に定期的に、利用者の就労の状況を都道府県及び市町村が確認し、必要な指導を行うとしています1。労働者性は「苦情が出たときだけ問題になる」論点ではなく、更新や監査の場面で継続的に見られる論点です。
実務チェックリスト#
- 出勤日・作業時間・作業量は利用者の希望を前提に決まっているか。事業所や取引先の都合で固定して守らせていないか
- 欠勤や納期遅れを理由に、工賃の減額・作業からの除外・利用の打ち切りをしていないか
- 職員の関わりが技術的指導にとどまり、指揮監督になっていないか。施設外就労先の従業員が直接指示を出していないか
- 工賃の計算方法が技能による差別になっていないか
- 多機能型では、A型とB型の作業場所・作業内容を区分し、勤務表・シフト表を分けて管理しているか
- 任意保険への加入促進と、労働安全衛生法を準用した安全衛生管理を行っているか
- 苦情の窓口が機能しており、労働基準関係法令に関する疑義が出たときの処理の流れを把握しているか
よくある質問#
Q. B型で出勤日や作業時間を決めて、利用者に守ってもらうことはできますか?#
通知は、B型利用者の出欠、作業時間、作業量等が利用者の自由であることを求めています1。本人の希望を踏まえて個別支援計画に通所予定を位置づけることは可能ですが、事業所や取引先の都合で固定し、守らなかった場合に不利益を与える運用は要件に反します。
Q. 納期に間に合わなかった利用者の工賃を減らしてもよいですか?#
できません。通知は、作業量が予約された日に完成されなかった場合にも、工賃の減額、作業員の割当の停止、資格剥奪等の制裁を課さないことを求めています1。
Q. 施設外就労先の企業の社員が、利用者に直接作業の指示を出してもよいですか?#
不可です。就労系留意事項通知は、請け負った作業についての利用者への指導等は施設外就労先の企業ではなく事業所が行うこと、利用者と企業の従業員が作業を共同で処理していないことを求めています4。労働者性の通知でも、支援は技術的指導に限られ、指揮監督は行わないとされています1。
Q. B型利用者が作業中にけがをした場合、労災は使えますか?#
B型利用者には労働者災害補償保険法の適用がありません。通知は、災害時の賠償手段として任意保険への加入の促進を図るとともに、労働安全衛生法を準用した安全衛生管理を極力行うことを求めています1。
Q. 利用者が労働基準監督署に相談した場合、事業所はどう対応すればよいですか?#
まずは指定基準に基づく苦情処理として対応し、事業所内で解決できなければ市町村又は都道府県が処理方針を決めます。労働基準監督署から市町村に照会があれば、市町村は法第48条に基づき事業者に書類の提出を求めるなどして状況を把握します。通知は、相談した利用者が不利益を被らないよう、本人の意思に反して個人情報が事業所に特定されないことへの配慮も求めています1。
関連記事#
制度上の根拠#
- 就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項について(障障発第1002003号・平成18年10月2日)1
- 指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第190条(雇用契約の締結等)・第201条(工賃の支払等)23
- 就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について(施設外就労の要件)4
Footnotes#
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厚生労働省「就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項について」(障障発第1002003号・平成18年10月2日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb4762&dataType=1&pageNo=1 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13
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指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第190条(雇用契約の締結等)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2
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同令 第201条(工賃の支払等)https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171 ↩ ↩2 ↩3
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厚生労働省「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(障障発0331第2号・令和7年3月31日改正版)p.33 https://www.mhlw.go.jp/content/001473458.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4