処遇改善加算を原資に「処遇改善手当」を支給している事業所で、その手当を最低賃金の計算に入れてよいかという問いは、最低賃金法の「算入しない賃金」の定めで決まります。結論は支払い方と性質しだいです。毎月支払う手当で、法令が除外する賃金(臨時の賃金・1か月を超える期間ごとの賃金・所定外労働の割増・精皆勤手当・通勤手当・家族手当など)に当たらなければ算入でき、賞与や一時金として支払う分は算入できません123。本記事では、最低賃金法の条文、厚生労働省の確認方法、処遇改善加算の通知が定める賃金改善のルールを並べて整理します。
結論:除外対象に当たらない毎月の手当は算入、賞与・一時金は算入しない#
| 処遇改善手当の支払い方 | 最低賃金の計算に | 根拠 |
|---|---|---|
| 毎月決まって支払う手当(月額の処遇改善手当など)で、下の除外対象に当たらないもの | 算入する | 「毎月支払われる基本的な賃金」が対象3 |
| 賞与として年2回など、1か月を超える期間ごとに支払う | 算入しない | 1月をこえる期間ごとに支払われる賃金は除外12 |
| 臨時に支払う一時金 | 算入しない | 臨時に支払われる賃金は除外12 |
| 時間外・休日の労働に対して支払う形(深夜は通常の賃金を超える割増部分) | 算入しない | 所定時間外・所定労働日以外の労働の賃金、深夜の通常の賃金を超える部分は除外12 |
| 出勤日数に応じて支払う(精皆勤手当の性質) | 算入しない | 精皆勤手当は除外3 |
手当の名称が「処遇改善手当」かどうかではなく、**いつ・何に対して支払われるか(性質)**で判断します。
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最低賃金に算入しない賃金#
最低賃金法第4条は、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないと定め、第3項で次の賃金を算入しないとしています1。
- 1月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
- 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
- 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
これを受けて、最低賃金法施行規則第1条が、次のものを定めています2。
- 臨時に支払われる賃金、1月をこえる期間ごとに支払われる賃金
- 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
- 午後10時から午前5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分
厚生労働省は、これらに加えて精皆勤手当、通勤手当及び家族手当も除外したものが最低賃金の対象になると説明しています3。
| 除外される賃金(厚生労働省の説明) | 例 |
|---|---|
| 臨時に支払われる賃金 | 結婚手当など |
| 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 賞与など |
| 所定労働時間を超える時間の労働に対する賃金 | 時間外割増賃金など |
| 所定労働日以外の日の労働に対する賃金 | 休日割増賃金など |
| 午後10時〜午前5時の労働の、通常の賃金を超える部分 | 深夜割増賃金など |
| 精皆勤手当、通勤手当、家族手当 | ― |
「処遇改善手当」という名称の手当は一覧にありません。毎月支払い、実質が上の除外対象(出勤日数に応じた精皆勤手当、所定外労働の対価など)に当たらなければ、最低賃金の対象に入ります3。
なお、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が適用される場合は、高いほうの額が適用されます1。
最低賃金以上かどうかの確かめ方#
月給制の場合は、最低賃金の対象となる賃金を時間額に換算して比べます24。
(月給 − 対象外の賃金)÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間の1か月平均所定労働時間数で割ります2。
計算例(数値は説明用の仮のもの)#
ある月の支給が、基本給160,000円、処遇改善手当(毎月)15,000円、通勤手当8,000円、時間外手当20,000円。年間所定労働日数250日・1日8時間、その地域の最低賃金が時間額1,000円とします。
- 対象外の賃金(通勤手当・時間外手当)を除く:160,000 + 15,000 = 175,000円
- 時間額に換算:175,000円 × 12か月 ÷(250日 × 8時間)= 1,050円
- 1,050円 ≧ 1,000円なので、最低賃金額以上です
同じ15,000円を毎月ではなく賞与で支払っていた場合は、160,000円 × 12 ÷ 2,000時間 = 960円となり、最低賃金額を下回ります。
日給と月給の手当を組み合わせている場合は、それぞれを時間額に換算して合計してから比べます4。
処遇改善加算の側のルール#
処遇改善加算の通知(令和8年度分)は、賃金改善を次のように定めています5。
- 加算の算定額に相当する賃金改善を実施しなければならない。賃金は基本給、手当、賞与等(退職手当を除く)を含む。
- 賃金改善は、基本給、手当、賞与等のうち対象とする項目を特定した上で行い、特定した項目を含め賃金水準を低下させてはならない(特別事情届出書の届出を行う場合を除く)。
- 安定的な処遇改善のため、基本給による賃金改善が望ましい。
- 令和8年度に増えた加算額で行う新たな賃金改善は、ベースアップ(賃金表の改訂により基本給または決まって毎月支払われる手当を一律に引き上げること)を基本とする。ただし、ベースアップのみで行えない場合は、必要に応じてその他の手当・一時金等を組み合わせて差し支えない。
あわせて、月額賃金改善要件として、処遇改善加算Ⅳの加算額(Ⅳ以外を算定する場合はⅣを算定したと仮定した見込額)の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当(基本給等)の改善に充てることが求められます6。この要件を満たすために、手当や一時金で行っている賃金改善の一部を基本給等に付け替えることは差し支えないとされています6。
これは処遇改善加算の要件の話で、最低賃金に算入できるかどうかとは別の制度です。最低賃金に算入できるかは、前述の最低賃金法の除外規定で判断します。
実務上の注意点#
- 賞与型の配分が多い事業所:処遇改善分を賞与・一時金で配っていると、その分は最低賃金の計算に入りません。月例の賃金だけで最低賃金を満たしているかを確認してください3。
- 最低賃金の改定時:最低賃金は毎年改定されます。基本給と毎月の手当の合計を時間額に換算し、改定後の額を下回らないかを確認します。地域ごとの最新額は厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」で確認できます。
- 手当の付け替え:最低賃金への対応のために手当の配分を変える場合も、処遇改善加算の「賃金改善の項目を特定し、賃金水準を低下させない」というルールは変わりません5。計画書の賃金改善の項目と整合させ、迷う場合は指定権者に確認してください。
- 名称より支払い方:「処遇改善手当」という名称でも、実際は年に数回まとめて支払っている場合は、1か月を超える期間ごとの賃金として除外されます12。
よくある質問#
Q. 処遇改善手当を毎月払いにすれば、最低賃金の計算に入れてよいですか?#
はい。毎月支払われる基本的な賃金は最低賃金の対象です3。精皆勤手当・通勤手当・家族手当のような除外対象でなければ、毎月の処遇改善手当は算入できます。
Q. 処遇改善の一時金(年1回)は最低賃金の計算に入りますか?#
入りません。1か月を超える期間ごとに支払われる賃金や臨時に支払われる賃金は除外されます123。
Q. 時給のパート職員の場合はどう考えますか?#
時給制は「時給 ≧ 最低賃金額(時間額)」で比べます4。毎月の処遇改善手当を別に支払っている場合は、月給制の手当と同じく時間額に換算して合計して比べます4。
Q. 処遇改善手当を最低賃金に含めると、処遇改善加算の要件に違反しますか?#
最低賃金の計算に含められるかどうかと、処遇改善加算の賃金改善の要件は、別々に判断します。処遇改善の手当を最低賃金の計算に含めること自体を禁じる定めは、通知にはありません。ただし処遇改善加算では、加算額に相当する賃金改善を行うこと、賃金改善の項目を特定し賃金水準を低下させないこと、加算Ⅳ相当の2分の1以上を基本給等の改善に充てることなどが求められます56。たとえば最低賃金の引上げに合わせて基本給を上げ、その分の処遇改善手当を減らすと、加算額に相当する賃金改善を行ったと言えるかが問題になり得ます。通知に明文の整理は無いので、計画書・実績報告書の賃金改善額とあわせて、指定権者に確認してください。
関連記事#
Footnotes#
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「最低賃金法」(昭和34年法律第137号)第4条(最低賃金の効力・第3項 算入しない賃金)、第6条(最低賃金の競合) (https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
-
「最低賃金法施行規則」(昭和34年労働省令第16号)第1条(算入しない賃金)、第2条(時間についての金額への換算) (https://laws.e-gov.go.jp/law/334M50002000016) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
-
厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」 (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43898.html) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
-
厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」 (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43899.html) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和8年度分・障障発0331第1号/こ支障第78号)2(2)賃金改善の実施に係る基本的な考え方(p.3) (https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/126420/r8_4_syoguukaizen_jimusyoritejyun.pdf) ↩ ↩2 ↩3
-
同通知(令和8年度分)①月額賃金改善要件(pp.4-5) (https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/126420/r8_4_syoguukaizen_jimusyoritejyun.pdf) ↩ ↩2 ↩3