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職業準備性とは?定義・評価の観点と事業所での高め方を解説

更新: 2026年7月16日

就労系障害福祉サービスの現場では「職業準備性」という言葉がよく使われますが、その中身を一次資料に沿って整理する機会は多くありません。本記事では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)障害者職業総合センターの調査研究報告書や、就労選択支援・就労移行支援で使われるアセスメントの手引を根拠に、職業準備性の定義、評価の観点、事業所での高め方と留意点を整理します。

1. 職業準備性とは何か(就労困難性との関係)#

職業準備性は、研究上「職業の理解」「基本的ルールの理解」「作業遂行の基本的能力」「作業遂行の態度」「対人関係の態度」及び「求職と面接技能」から構成されるとされています(松為, 1998)1。JEED障害者職業総合センターの調査研究(NIVR調査研究報告書No.168)は、この職業準備性を「障害者を採用する際に重視する事項」と捉え、企業2,960社への調査から、実際にどの要素が重視されているかを明らかにしました1

同報告書のテーマは「職業準備性と就労困難性」の両方でしたが、開発された評価ツール(就労支援のためのアセスメントシート)は、就労困難性そのものを名称や評価対象とはしませんでした。理由として「就労前の段階で就労困難性を評価することが困難かつ不適切であると判断した」ことが挙げられています2

さらに、評価項目そのものについても「職業準備性」という言葉は最終的なツールの表記には採用されませんでした。支援者がアセスメント結果を単純に「就労可能性の高低」や「就労の阻害要因」と結び付けて認識してしまうことを懸念し、試作版・活用の手引では「就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状」または「就労のための基本的事項」という表記に置き換えられています2。つまり、職業準備性は支援現場での評価・支援に役立つ考え方である一方、その言葉自体の使い方には注意が必要だという点が、一次資料からも読み取れます。

2. なぜ職業準備性が重要か#

障害者が職業人としての役割に参入し、それを維持していくためには、職業準備性を整えていくことが重要であるとされています(松為, 2020;松井, 2022)。あわせて、職業準備性は生涯にわたる支援や、受け入れる環境との相互関係の中で捉えていく必要があるとも指摘されています(松為, 2020)3

企業側が採用時に重視する項目(「チェックした・重視した」の選択率)を見ると、上位には次のような項目が並びます1

順位項目選択率
1職場の規則を守る71.4%
2欠勤、遅刻などを連絡できる66.9%
3正当な理由(通院、体調不良、電車の遅れ等)のない遅刻・早退・欠席(欠勤)はなく、業務に支障をきたすことはない65.8%
4指示通りに作業できる63.4%
5健康に気をつけ、良好な体調を保っている60.8%
6与えられた仕事を最後までできる59.8%
7相手や場に応じた挨拶や返事ができる57.9%

上位項目は、いずれも「基本的ルールの理解」や「対人関係の態度」に関わるものであり、専門的な作業能力よりも、就労を継続するための基本的な生活・行動面が重視されていることがわかります1

この考え方は、令和7年10月に施行された就労選択支援の運営基準にもつながっています。指定障害福祉サービスの人員・設備・運営基準では、就労選択支援の事業は「利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう…短期間の生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に関する適性、知識及び能力の評価並びに…事項の整理を行い…適切かつ効果的に供与するものでなければならない」と定められています4。就労選択支援の実施マニュアルでは、このアセスメントの中核として「就労のための基本的事項」(作業遂行・職業生活・対人関係)を44項目にわたって確認する仕組みが採用されており、職業準備性の考え方がそのまま制度上のアセスメントに組み込まれていることがわかります5

3. 評価の観点(アセスメントシートの構成)#

就労支援のためのアセスメントシート(NIVRマニュアルNo.78)及び就労選択支援実施マニュアルでは、アセスメントは次の3つの情報を、本人と支援者が協同で収集・整理するものとされています65

  1. 本人の就労に関する希望・ニーズ
  2. 本人の就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状(就労のための基本的事項)
  3. 本人と環境との相互作用の視点による就労継続のための望ましい環境(就労継続のための環境)

アセスメントシート全体の構成は以下のとおりです5

シート項目数内容
1. 就労に関する希望・ニーズ33項目職歴/就労等の希望/働く動機・目的/就職活動/職種・仕事の内容/労働条件・通勤/職場環境/合理的配慮/ストレングス(長所)/支援サービス
2. 就労のための基本的事項44項目(選択実施)作業遂行/職業生活/対人関係
3. 就労継続のための環境10領域53項目(領域を選択実施)職務への適応/労働条件の設定・変更/職場の人に障害のことを理解し配慮してもらうこと/職場の設備・機器等/職場のルールや指示を理解し守ること/職場での適応行動・態度/体調、疲労・ストレス、不安、感情コントロール等/症状の悪化・再発、二次障害/家族のサポート、家庭環境の変化、友人等との関係性/職場の人間関係

このうち「就労のための基本的事項」44項目は、作業遂行21項目(必須3・選択18)、職業生活14項目(必須8・選択6)、対人関係9項目(必須6・選択3)に分かれており、合計で必須17項目・選択27項目という構成です7

評価は「対象者と支援者による評価項目の選択」「対象者による自己評価」「対象者と支援者による協同評価」の3段階で構成されており、このうち最後の協同評価は、さらに次の3段階に分かれます8

図: 就労のための基本的事項における協同評価の3段階(NIVR調査研究報告書No.168 p.111-112に基づく)

「支援・配慮なし」でB・C評価だった項目のみ「支援・配慮あり」の評価に進み、個別的な支援・配慮が必要な事項とそうでない事項を整理します。この整理は、将来の就職先との合理的配慮の調整過程に向けて必要になるとされています8。評価の際には、チェックの結果そのものよりも、どのような方法で評価したか、どのような具体的行動が観察されたかを対象者と支援者で共有することが重視されています9

4. 事業所での高め方・支援での使い方#

アセスメントで得られた結果は、対象者に関する個別支援計画(対象者の能力開発と環境調整)を作成する際の参考とすることができるとされています10

「就労継続のための環境」10領域53項目については、対象者・家族・関係機関からの情報や、場面設定法(作業場面)・職場実習等により把握した情報をもとに、対象者と支援者との協議で次の手順により整理します11

  1. チェック項目に記載された事項について、支援・配慮が必要であるかを検討する
  2. 支援・配慮が必要と判断された項目について、望ましい(避けた方がよい)環境や必要な支援・配慮の具体的内容を自由記述欄に記述する

活用の手引(NIVRマニュアルNo.78)では、項目ごとに「支援や配慮が必要かどうか判断するための視点の例」と、実際の企業の取組例が付されています。例えば「職場の人間関係の維持」という項目では、判断の視点として「自分の方から挨拶するために必要な支援はないか」「共同作業を行う際、思い通りにいかないときの気持ちの整理をするために必要な支援や配慮はないか」といった観点が示されており、実際の取組例として、トラブル発生時に話し合いの場を設けて相互理解を図った例や、席替えなど作業環境面での配慮を行った例が紹介されています12。事業所での支援においては、こうした観点別の具体例を参考にしながら、本人と一緒に「できない」ことを指摘するのではなく、必要な支援・配慮を明らかにしていく進め方が求められます。

5. 留意点:職業準備性を利用制限の口実にしない#

職業準備性やアセスメントの結果を、支援の可否やサービス利用の判断材料として一方的に使うことは、一次資料上も明確に否定されています。

まず、就労支援のためのアセスメントシート自体について、開発元は「特定のサービス等への振り分けを行うために使用するものではない」としています2。また、対象者にアセスメントの目的・留意事項を説明する「対象者説明シート」には、次のように明記されています。

「『Ⅱ.就労のための基本的事項』について、各項目がどれくらいできるかを確認しますが、『できない』と判断された項目があるからといって就労できないわけではありません。自分の長所や課題を把握するために各項目の確認を行います。」13

同様の考え方は、就労選択支援の制度運用にも明記されています。「就労選択支援の実施について」の一部改正通知では、アセスメント結果について「本人の課題等を踏まえ、今後必要と考えられる支援の在り方や想定される今後の就労先・働き方等を記載すること」としたうえで、「就労選択支援事業者が本人の就労の可否や利用すべき就労系障害福祉サービス、利用する事業所等を判断・決定するものではないことに留意すること」「今後の支給決定に向けた参考情報に過ぎず、就労選択支援事業者が利用サービス等のあっせんを行うものではないことに留意すること」と明記されています14

事業所としては、職業準備性の評価結果を「まだ働けない理由」として利用制限や支援打ち切りの根拠にするのではなく、本人と協同で必要な支援・配慮を明らかにし、次のステップを考えるための材料として位置づけることが、一次資料の趣旨に沿った使い方だといえます。

よくある質問#

Q. 職業準備性と就労困難性は同じ意味ですか?#

同じではありません。職業準備性は、企業が採用時に重視する「職業の理解」「基本的ルールの理解」「作業遂行の基本的能力」「作業遂行の態度」「対人関係の態度」「求職と面接技能」などから構成される考え方です1。一方、就労困難性については、JEED障害者職業総合センターの調査研究でも「就労前の段階で評価することが困難かつ不適切」と判断され、開発された評価ツールでは名称にも評価対象にも採用されませんでした2

Q. 「職業準備性」という言葉は、アセスメントシートでもそのまま使われていますか?#

いいえ。就労支援のためのアセスメントシートでは、支援者がアセスメント結果を安易に「就労可能性の高低」に結びつけてしまうことを避けるため、「職業準備性」という表現ではなく「就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状」または「就労のための基本的事項」という表記が採用されています2

Q. 職業準備性の評価は、就労系サービスの利用可否を判断するために使ってよいですか?#

使うべきではありません。アセスメントシートの開発元は「特定のサービス等への振り分けを行うために使用するものではない」としており2、就労選択支援の制度運用でも、アセスメント結果は「就労の可否や利用すべき就労系障害福祉サービス…を判断・決定するものではない」と明記されています14。評価結果は、本人と協同で必要な支援・配慮を検討するための材料として使うことが前提とされています。

Q. 事業所で職業準備性を高める際、何を参考にすればよいですか?#

「就労のための基本的事項」44項目(作業遂行・職業生活・対人関係)や「就労継続のための環境」10領域53項目の観点別に、支援・配慮が必要かどうかを検討し、必要な支援・配慮の具体的内容を整理していく方法が示されています711。活用の手引には項目ごとの判断の視点と企業の取組例が掲載されており、本人と協同で「できないこと」ではなく「必要な支援・配慮」を明らかにする進め方が推奨されています12


出典#

Footnotes#

  1. 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター「就労困難性(職業準備性と就労困難性)の評価に関する研究」(NIVR調査研究報告書No.168・2023年3月)p.95 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/h3iskd0000005gar-att/houkoku168.pdf 2 3 4 5

  2. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.104 2 3 4 5 6

  3. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.97

  4. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第百七十三条の二 https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171

  5. 厚生労働省「就労選択支援 実施マニュアル」p.31 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001480295.pdf 2 3

  6. 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター「就労困難性(職業準備性と就労困難性)の評価に関する研究」(NIVR調査研究報告書No.168)p.104

  7. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.108〜109(「項目は3領域の44項目(うち必須項目が17項目、選択項目が27項目)とした」「作業力は18項目、仕事への態度は3項目、職業生活は14項目、対人関係は9項目であった…作業力と統合して『作業遂行』という領域にまとめた」) 2

  8. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.108(3段階の構成)、p.111(協同評価内の①〜③の段階) 2

  9. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.111〜112

  10. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.116

  11. 同上(NIVR調査研究報告書No.168)p.115 2

  12. 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター「就労支援のためのアセスメントシート活用の手引」(NIVRマニュアルNo.78)p.82 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/h3iskd0000005rn7-att/kyouzai78_1.1.pdf 2

  13. 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター「就労困難性(職業準備性と就労困難性)の評価に関する研究」(NIVR調査研究報告書No.168)p.145

  14. 厚生労働省「就労選択支援の実施について」の一部改正について(障障発0930第3号・令和7年9月30日)p.11 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001571813.pdf 2

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