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事業拡大・M&A時の指定の扱い|承継されない基本ルールと届出実務

公開: 2026年7月19日更新: 2026年7月19日

事業拡大・M&Aで最初に押さえるべきこと#

障害福祉サービスの指定は、サービスの種類及び事業所ごとに行われます1。就労継続支援A型とB型を両方運営している場合も、法人単位で1つの指定を受けているのではなく、事業所・サービス種類の組み合わせごとに個別の指定を受けている状態です。

この「指定は事業所ごと」という原則が、事業拡大・多事業展開・M&Aを考えるうえでの出発点になります。新しい事業所を増やす、新しいサービス種類を始める、他法人の事業を譲り受ける——いずれの場面でも、指定という行政上の許可は自動的には増えたり移ったりしません。何が届出で足り、何が新規の指定申請を要するのかを区別して押さえておく必要があります。

とりわけ重要なのが、事業譲渡やM&Aの場面です。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「総合支援法」)の指定障害福祉サービス事業者に関する規定(第36条〜第50条)を確認すると、指定・指定の更新・変更の届出・事業の廃止/休止の届出・指定の取消しは定められている一方、「合併・分割による指定の地位の承継」を認める規定は見当たりません。つまり、法人の経営権や事業そのものを譲渡・合併しても、都道府県知事等から受けた「指定」という行政処分の地位は、その手続だけでは譲受側に引き継がれないと考えられます。この点は本稿の中心的な論点として、後段で詳しく扱います。


指定の更新(6年ごと)#

指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設の指定は、6年ごとにその更新を受けなければ、期間の経過によって効力を失います2。更新申請が有効期間満了までに処理されない場合は、処分がされるまでの間は従前の指定がなお効力を有し、更新後の有効期間は従前の満了日の翌日から起算されます2

更新の審査自体は新規指定の審査基準(第36条第3項各号:人員・設備基準の充足、欠格事由の不該当など)を準用して行われます2。事業拡大局面では、更新のタイミングと、事業所の増設・M&Aによる体制変更のタイミングが重なると審査が煩雑になりやすいため、既存事業所の指定更新時期を把握したうえでスケジュールを組むことが実務上重要です。

なお、指定の更新申請にあたっては、申請事業者が総合支援法第76条の3に基づく情報公表制度への報告を行っていることを都道府県知事等が確認するとされています3。多事業展開で事業所数が増えるほど、情報公表報告の管理も煩雑になる点に留意が必要です。


多事業展開時の手続き — 新規サービスは原則、新たな指定申請#

同一法人が複数のサービス種類・複数の事業所を展開する「多事業展開」自体は、総合支援法上ごく普通の形態です。ただし、指定が「サービスの種類及び事業所ごと」に行われるという第36条1項の原則により、事業拡大の内容によって必要な手続きが変わります。

  • 新しい事業所を開設する場合(既存事業所とは別の場所に、既存または新規のサービスを始める):新しい事業所について、通常の新規指定申請が必要です1
  • 既存事業所に新しいサービス種類を追加する場合(多機能型化。例:A型のみの事業所にB型や生活介護を追加する):追加するサービス種類について、その事業所単位での新規指定申請が必要です1
  • 既存事業所の中で、既に指定を受けている特定障害福祉サービス(就労継続支援等、サービスの「量」を定めて指定されるもの)の量を増やす場合:新規指定ではなく、指定の変更申請で対応します4

つまり「多事業展開=指定が自動的に増える」わけではなく、サービスの種類が増える限りは原則として新規の指定申請が必要という点をまず押さえる必要があります。既存の指定を根拠に、届出だけで新サービスの提供を始めることはできません。


事業譲渡・M&A時の実務 — 承継規定の不在とその帰結#

事業拡大の手段として、他法人が運営する障害福祉サービス事業所を譲り受ける、あるいは法人同士が合併する形でのM&A・事業承継を検討するケースが増えています。ここで最も注意すべきなのが、冒頭で触れた**「指定の承継」に関する規定が総合支援法に存在しないという点**です。

総合支援法の指定障害福祉サービス事業者・指定障害者支援施設に関する規定を精査すると、指定(第36条)・指定の更新(第41条)・変更の届出(第46条1項)・事業の廃止/休止の届出(第46条2項)・指定の取消し(第50条)といった一連の手続きは定められていますが、事業者の合併・分割・事業譲渡があった場合に、譲受側や存続法人が指定の地位をそのまま引き継げるとする規定は見当たりません。これは、事業者の地位承継規定が整備されている介護保険法とはしばしば対比される点であり(本稿では介護保険法側の条文までは確認していません)、少なくとも総合支援法の条文上は、指定という行政処分について事業譲渡・合併時の当然承継を認める仕組みが置かれていないことは確認できます。

この「承継規定の不在」から実務上導かれる原則は、次のとおりです。

  1. 譲受側(買い手)は、譲り受ける事業所について新規の指定申請を行う必要があります。 譲渡元の指定をそのまま名義変更のような形で引き継ぐことはできないと考えられます。
  2. 譲渡側(売り手)は、事業を廃止する場合は事業の廃止の届出(第46条2項)を、事業者の名称等が変わるにとどまる場合は変更の届出(第46条1項)を行う必要があります。
  3. 新規指定の審査には、通常の新規開設と同様に人員・設備基準の充足確認等の期間を要するため、譲受側の指定が下りるまでの間、事業所の運営・報酬請求の主体をどう扱うかを自治体と事前に協議しておく必要があります。指定の空白期間が生じると、その間の利用者への介護給付費等の支給に支障が出かねません。

なお、第36条3項には新規指定を拒否する欠格事由が列挙されており、その中には指定取消しの処分に係る手続が始まった後に自ら事業の廃止届を提出した者は、届出日から5年間、原則として新たな指定を受けられないとする規定があります(第8号〜第10号)1。M&Aで他法人の事業を譲り受ける際は、譲渡対象事業所が過去に行政指導・監査を受けていないか、直近の廃止届が指定取消し逃れの実質を持っていないかを、デューデリジェンスの一環として確認する意味があります。


変更・廃止・休止の届出(期限)#

指定を受けた後の各種変更手続きは、届出の内容によって期限が異なります。第46条(変更の届出等)に定められた期限は次のとおりです5

手続き期限根拠
事業所の名称・所在地その他の主務省令で定める事項の変更、休止した事業の再開変更等があった日から10日以内総合支援法第46条1項
事業の廃止・休止廃止又は休止の日の1月前まで総合支援法第46条2項

指定障害福祉サービス事業者は、当該指定に係るサービス事業所の名称及び所在地その他主務省令で定める事項に変更があったとき、又は休止した当該指定障害福祉サービスの事業を再開したときは、主務省令で定めるところにより、十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。 2 指定障害福祉サービス事業者は、当該指定障害福祉サービスの事業を廃止し、又は休止しようとするときは、主務省令で定めるところにより、その廃止又は休止の日の一月前までに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。5

M&Aや事業譲渡は「変更」ではなく実質的に事業主体が入れ替わるため、通常は譲渡側の廃止届(1月前まで)と譲受側の新規指定申請の組み合わせで処理されることになります。廃止の1月前という期限は、譲渡実行日から逆算してスケジュールを組む際の起点になります。

なお、指定「障害者支援施設」(グループホームや施設入所支援等の施設系サービス)の設置者については、3月以上の予告期間を設ければ指定を辞退できるという別の規定(第47条)があります6。就労系サービスを含む「指定障害福祉サービス事業者」にはこの辞退の規定はなく、事業を終える場合は第46条2項の廃止の届出によることになります。


留意点#

  • 指定の連続性は保証されない前提で計画する:M&Aの効力発生日と、譲受側の新規指定が下りる日は一致しない可能性があります。指定申請から処分までに一定の審査期間を要することを踏まえ、余裕を持ったスケジュールを組む必要があります。
  • 利用者への影響を最小化する:事業譲渡に伴い事業所の指定主体が変わる場合、利用者は改めて契約を結び直すことになり得ます。支給決定・受給者証の取扱いを含め、自治体・相談支援事業所と早期に調整することが望まれます。
  • 自治体への事前確認を徹底する:指定の承継に関する明文規定がない以上、実際の運用(申請書類・審査期間・指定の空白期間の扱い等)は指定権者である都道府県・政令市・中核市の実務に左右される部分があります。M&Aを検討する段階で、対象事業所を所管する自治体の窓口に早めに相談することが不可欠です。
  • 廃止届の履歴を確認する:前述のとおり、指定取消し手続の開始後に自ら廃止届を出した事業者・役員等は一定期間新規指定を受けられません(第36条3項8号〜10号)。譲渡対象事業所の指定・処分履歴を確認することは、M&A実務における基本的なデューデリジェンス事項です。

よくある質問#

Q. 事業譲渡やM&Aをすれば、指定はそのまま引き継がれますか?#

いいえ。総合支援法には、合併・分割等による指定の地位の承継を認める規定は見当たりません。原則として、譲受側は譲り受ける事業所について新規の指定申請を行い、譲渡側は事業の廃止または変更の届出を行うことになります15

Q. 既存事業所に新しいサービス種類を追加する場合、届出だけで済みますか?#

済みません。指定は「サービスの種類及び事業所ごと」に行われるため、新しいサービス種類を追加する場合は、そのサービス種類について新規の指定申請が必要です1。既に指定を受けている特定障害福祉サービスの量(定員等)を増やすだけの場合は、指定の変更申請で対応します4

Q. 事業を廃止する場合、いつまでに届け出る必要がありますか?#

廃止(または休止)の日の1月前までに、都道府県知事へ届け出る必要があります5。事業所の名称・所在地等の変更や休止事業の再開については、変更等があった日から10日以内の届出です5

Q. 指定の更新は何年ごとに必要ですか?#

6年ごとです。更新を受けなければ、期間の経過によって指定の効力を失います2


Footnotes#

  1. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第36条(指定障害福祉サービス事業者の指定)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123 2 3 4 5 6

  2. 同法第41条(指定の更新)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123 2 3 4

  3. 厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」p.18(指定の更新申請時における情報公表報告の確認)https://www.mhlw.go.jp/content/001216035.pdf

  4. 同法第37条(指定障害福祉サービス事業者の指定の変更)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123 2

  5. 同法第46条(変更の届出等)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123 2 3 4 5

  6. 同法第47条(指定の辞退)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123

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