電磁的記録による保存とは#
障害福祉サービス事業所は、サービス提供に関する記録を一定期間保存する義務があります。令和3年度の制度改正により、これらの記録を**電磁的記録(電子データ)**で保存することが正式に認められました1。
電磁的記録による保存を活用することで、紙の保管スペースの削減、検索性の向上、災害時のデータ保全など、多くのメリットが得られます。本記事では、電子保存の要件や具体的な方法、移行手順について解説します。
保存義務のある文書#
障害福祉サービス事業所が保存義務を負う主な文書と保存期間は以下のとおりです。
| 文書 | 保存期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 個別支援計画 | 完結の日から5年間 | アセスメント記録を含みます |
| サービス提供記録 | 完結の日から5年間 | 日々の支援記録です |
| 請求関連書類 | 完結の日から5年間 | 請求明細書、サービス提供実績記録票等です |
| 苦情記録 | 完結の日から5年間 | 苦情の内容と対応経過を記録したものです |
| 事故報告書 | 完結の日から5年間 | 事故の内容、原因、対応を記録したものです |
| 従業者の勤務記録 | 完結の日から5年間 | 出勤簿、シフト表、勤務実績表等です |
| 会議記録 | 完結の日から5年間 | サービス担当者会議や委員会の議事録等です |
| 契約書・重要事項説明書 | 完結の日から5年間 | 利用者との契約関連書類です |
なお、保存期間について条例でより長い期間を定めている自治体もあるため、事業所の所在する自治体の規定も確認してください。
「完結の日」とは#
保存期間の起算日となる**「完結の日」**は、文書の種類によって異なります。正しく理解しておかないと、必要な期間の保存ができないおそれがあります。
| 文書種別 | 「完結の日」の考え方 |
|---|---|
| 個別支援計画 | 当該計画に基づくサービス提供の最終日(計画期間の最終請求日)です |
| サービス提供記録 | 当該記録に係るサービス提供が行われた月の末日です |
| 請求関連書類 | 当該請求に係る支払いが完了した日です |
| 苦情記録 | 苦情への対応が終了した日です |
| 事故報告書 | 事故への対応が完了した日(損害賠償の場合は解決日)です |
| 契約書 | 契約が終了した日(退所日、サービス利用終了日)です |
| 従業者の勤務記録 | 当該従業者の退職日または当該期間の末日です |
たとえば、令和6年4月に作成した個別支援計画の計画期間が令和6年4月〜令和7年3月の場合、「完結の日」は令和7年3月末(最終請求月の末日)となり、そこから5年間(令和12年3月末まで)の保存が必要です。
電磁的記録の要件#
電子データで保存する場合は、以下の3つの要件を満たす必要があります1。
| 要件 | 内容 | 具体的な対応例 |
|---|---|---|
| 見読性 | 必要なときに速やかに画面表示・印刷できること | 一般的なPCとプリンタで出力できる形式で保存します |
| 完全性 | データの改ざん防止措置を講じること | アクセスログの記録、バージョン管理の実施を行います |
| 機密性 | アクセス権限の管理を適切に行うこと | ID・パスワードによるアクセス制御を実施します |
電子保存の具体的な方法#
電子保存の方法にはいくつかの選択肢があります。事業所の規模や予算、ITスキルに応じて最適な方法を選びましょう。
| 保存方法 | メリット | デメリット | 適した事業所 |
|---|---|---|---|
| クラウドサービス | 災害に強い、どこからでもアクセス可能、自動バックアップ | 月額費用がかかる、インターネット接続が必須 | 複数拠点がある事業所、BCP対策を重視する事業所 |
| 社内サーバー | データを自社内で完結管理できる、カスタマイズ性が高い | 初期費用が高い、保守管理が必要、災害リスク | IT担当者がいる中〜大規模事業所 |
| NAS(ネットワーク接続ストレージ) | 比較的安価、社内ネットワークで共有可能 | 災害リスクあり、外部からのアクセスに制限 | 小〜中規模の単一拠点事業所 |
| 障害福祉ソフト(クラウド型) | 記録と保存が一体化、法令要件に対応済み | 月額費用がかかる、ソフト変更時のデータ移行が課題 | 記録業務の効率化を図りたい事業所 |
ファイル形式の推奨#
電子保存する際のファイル形式は、長期保存に適した形式を選択してください。
| ファイル形式 | 用途 | 推奨度 |
|---|---|---|
| PDF/A | 長期保存に最適化されたPDF形式 | ◎ |
| 一般的なPDF形式 | ○ | |
| JPEG/PNG | スキャン画像 | ○ |
| 独自形式(ソフト専用) | 障害福祉ソフトの内部データ | △(エクスポート機能の確認が必要) |
セキュリティ対策#
電子保存を行う場合は、個人情報保護の観点から適切なセキュリティ対策を講じる必要があります2。
アクセス権限管理#
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| ID・パスワード管理 | 職員ごとに個別のID・パスワードを発行し、共有アカウントの使用を避けます |
| 権限の最小化 | 職種・役職に応じて閲覧・編集・削除の権限を分けます |
| 退職者のアカウント削除 | 退職時に速やかにアカウントを無効化します |
| アクセスログの記録 | 誰がいつどのデータにアクセスしたかを記録します |
バックアップ#
| 対策 | 推奨頻度 |
|---|---|
| データバックアップ | 最低でも1日1回の自動バックアップを実施します |
| バックアップの保管場所 | 事業所とは別の場所(クラウドまたは遠隔地)に保管します |
| 復旧テスト | 年1回以上、バックアップからのデータ復旧テストを行います |
その他の対策#
- 通信の暗号化: クラウドサービスを利用する場合は、SSL/TLS通信に対応したサービスを選択します
- 端末のセキュリティ: ウイルス対策ソフトの導入、OSの定期的なアップデートを行います
- 物理的な対策: サーバーやNASを設置する場合は、施錠可能な場所に設置します
電磁的方法による交付#
利用者への書面交付も、利用者の承諾を得た上で電磁的方法(メール、クラウドサービス等)で行うことが可能です。
対象となる書面#
| 書面 | 電子交付の注意点 |
|---|---|
| 個別支援計画 | 利用者の承諾を書面またはメール等で記録しておきます |
| 重要事項説明書 | 交付の記録(送信日時、送信先)を保管します |
| 契約書 | 電子署名の活用も検討します |
| サービス提供記録 | 利用者が容易に確認できる形式で交付します |
電磁的方法による交付を行う場合は、利用者がデータを受信・閲覧できる環境にあることを確認してください。高齢者や障害特性によりデジタル機器の操作が困難な場合は、従来どおり紙での交付を行います。
実地指導での確認ポイント#
行政の実地指導(指導監査)では、記録の保存状況が重点的に確認されます。以下のポイントを日頃から意識して管理しておきましょう。
| 確認項目 | 具体的な確認内容 |
|---|---|
| 保存期間の遵守 | 5年以内のデータが確実に保存されているか |
| 見読性の確保 | 指定された記録を速やかに画面表示・印刷できるか |
| 改ざん防止措置 | アクセスログや変更履歴が適切に管理されているか |
| アクセス権限管理 | 職員ごとの権限設定が適切に行われているか |
| バックアップ体制 | 定期的なバックアップが実施されているか |
| 個人情報保護 | セキュリティ対策が講じられているか |
実地指導では、特定の利用者の記録や特定期間のサービス提供実績を指定して提出を求められることがあります。電子保存の場合は検索性が高いため、紙保存よりも迅速に対応できるメリットがあります。
紙からの移行手順#
現在紙で記録を保管している事業所が、電子保存に移行する場合の具体的なステップを紹介します。
| ステップ | 内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 現状把握 | 保管している文書の種類・量・保管場所を棚卸しします | 1〜2週間 |
| 2. 方針決定 | 電子保存の方法(クラウド・NAS等)と対象文書を決定します | 1〜2週間 |
| 3. 環境構築 | 保存先の構築、フォルダ構成の設計、アクセス権限の設定を行います | 2〜4週間 |
| 4. 運用ルール策定 | ファイル命名規則、保存手順、バックアップルールを文書化します | 1〜2週間 |
| 5. 職員研修 | 電子保存の手順とセキュリティルールについて全職員に研修を行います | 1週間 |
| 6. 移行開始 | 新規作成分から電子保存に切り替えます(過去分は段階的にスキャン) | 段階的に実施 |
| 7. 運用確認 | 1〜3か月後に運用状況を確認し、改善点を洗い出します | 1〜3か月後 |
移行時の注意点#
- 過去の紙記録は保存期間が満了するまで廃棄せず、並行して保管することを推奨します
- 移行期間中は紙と電子の二重管理が発生するため、どちらに最新版があるかを明確にするルールを設けてください
- フォルダ構成は「年度 → 利用者名 → 文書種別」などの統一ルールを事前に決めておきます
よくある質問#
Q. 紙の記録をスキャンして電子保存することは可能ですか?#
はい、可能です。スキャン画像が鮮明で見読性を確保できていれば、電磁的記録として認められます。解像度は300dpi以上を推奨します。ただし、署名・押印のある書類については、原本保管が望ましい場合もありますので、管轄の行政機関に確認してください。
Q. クラウドサービスに保存してもよいですか?#
はい、一定の条件を満たせば利用可能です。データセンターが国内にあること、SSL/TLS通信による暗号化がされていること、アクセス権限管理が可能であること、利用規約にデータの所有権が事業所にあることが明記されていることなどを確認してください。
Q. 保存期間の「5年間」は条例で変わることがありますか?#
はい、自治体によっては条例で5年より長い保存期間を定めている場合があります。事業所の所在する市町村の条例を確認し、条例で定められた期間が長い場合はそちらに従ってください。
Q. 電子保存に切り替えた場合、紙の原本は捨ててよいですか?#
電磁的記録として要件を満たす形で保存されていれば、紙の原本を廃棄することは制度上可能です。ただし、移行直後は念のため一定期間(1年程度)紙の原本を並行保管し、電子保存の運用が安定してから廃棄することを推奨します。
Q. 実地指導の際、電子データの印刷を求められることはありますか?#
はい、実地指導では特定の記録の印刷を求められることがあります。そのため、電子保存を行う場合でも、プリンタで速やかに印刷できる環境を維持してください。これは電磁的記録の「見読性」の要件でもあります。